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シングルパパ雪次郎の部屋

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断片的な思い出は自分にとって結構重要だったりする。思い出しては瞬間瞬間メモしていこうと思う。自分ごときがやることではないが、何かの参考ししてもらえれば幸いであります。

MP3再生装置

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中2の頃のことだった。年頃になってきた君は、MP3再生装置の「IPODを買ってくれ」と言ってきた。周りの友達はこの「IPOD」を持っている子が多いらしい。¥19700タイプか¥29700タイプを希望していたのだと思う。「IPOD」はデザイン性と操作性がバツグンなので、女の子の希望アイテムであることは分かっていたのだが、「IPOD」と同じ機能を持ったMP3再生装置があるどうかをネットで早速調べてみた。画面上に曲名がリストアップ表示されて、それをカーソルで曲名を選択できるタイプであれば「IPOD」と内容的にはそんなに変わらない。お父さんは勝手にそう判断した。あった。あった。トランセンドMP850(8GB)(メイドイン中国)¥5500(送料無料)。有希に言った。
「デザインや操作性は「IPOD」に負けるけど、中身的には「IPOD」と同じなので、これを買おうと思う。これで勘弁してくれ」。有希は「うん」とうなずいた。
こういった場合、君は贅沢を言わない子供であることを、お父さんは知ってのことだった。君が小3の時、勤め先の会社が倒産した。それ以来、値段を集中的に見て買い物をする父親にいかなる時でも、君は協力的な気持ちをぶつけてくれるようになった。
早速注文した。以来、君は寝るときも、車で移動する時も、宿題をする時も、この再生装置を宝物のように大事にしてくれている。中国製の装置は再生時、画面に音量の状態を表す赤い棒グラフが表示される。その棒は10本くらいだろうか、画面上に棒のそれぞれが上がったり下がったりする。まるで、音楽の動きをリアルタイムに映し出しているように見えるが、そうではない。よく見ると、現在再生されている楽曲の音とは全く無関係に棒グラフは動いている。音の周波数のおのおのに対応した棒の動きでなく、子供だましのインチキインジゲーターであることが少し見ると分かる。
夜、用事で有希を車で送って行く時、暗闇の中、助手席の有希の横顔は、インチキインジゲーターの青い光にライトアップされていた。インジゲーターを見つめる有希の耳にはイヤホンを通して、ミスチルなのかアイコなのか、今時の流行歌が流れ込んでいるのだろう。こんな風に安物を大事そうに扱ってくれる自分の娘の姿を見るたびに、娘の口座に一円でも多くのお金を貯金しようと気持ちを振るいたたせてきた自分がいたように思う。将来、「どっかの学校に行きたい」と有希が言ってきた時、なんとか行かせられるだけのものを、高校を卒業する時までに捻出しなければならない。