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シングルパパ雪次郎の部屋

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写真の腕はまだまだなので、デジカメで被写体を沢山撮りまくって奇跡の一枚を探す。その確率は50枚分の1枚くらいのような気がする。残りの49枚を気前よく削除できるかどうか。それをクリア出来た時、おいらみたいな人間でもいい写真は撮れるような気がする。

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2005.5.29 君のお母さん

yuki1_abou2.jpg「ねえ お父さんは 結婚したこと ある?」

「うん あるよ」

「ふーん それって もしかして 有希ちゃんのお母さん?」

「そうだよ」

「ねえ おとう 有希ちゃんのお母さんてどんな人だった。?」

「うーん 女の人だったよ。」

「あったりまえでしょ!そんなの 有希ちゃんちゃんと聞いてるんだよ!ねえ どんな人だったって!」

「うーん どんな人っていわれてもなぁ」

「目はどんなだった?」

「うーん 普通かな」

「普通って どういうこと いろいろあるでしょ どんな目だったって聞いてるのに!」

「うーん」

「じゃ 口は どんなだった?ねえ」

「うーん 口? うーん やっぱ 普通かなぁ」

「普通ってことないでしょ! いろいろ あるでしょ いろいろの中で 「何!」って聞いてるんでしょ! もぉ!」


3年生になっていろいろ友達に聞かれてるみたいだ。
担任の先生も心配してくれてる。

先生「この前私の目の前で 有希ちゃんに、「なんでお母さんいないの?」ってやられてました。」

父「ありゃ でも ほっといてもらってOKだと思います。心配ないです ハイ」

あと

「この子お母さんいないんだよ」と人にそう紹介されるらしい。

有希はこのことを家では一言も言わない。
後で他人に教えてもらうことになる。
だからちょっといじらしい面もあるのだが。


保育園の頃から慣れてるのでだいじょうぶなんです。

そう言って お父さんはヘラヘラ笑う。
でも最近、家によって それぞれいろんな事情があるということがわかってきたみたいだ。
どんな家も多かれ少なかれいろんな事情をかかえている。
うちだけじゃない。
そこらへんが少しだけ分かってきたみたいだ。
だからいろいろ説明しやすくなってきた。
そろそろ 詳しく説明しなきゃならない時期になってきたかなぁ。
そのうちゆっくりしゃべってみっかなぁと思い毎回先送りになる。

君のお母さんは とってもやさしくて きれいな人だった。
お父さんは実は一目惚れだった。
君のお母さんと結婚できるんだったら お父さんは死んでもいいと思った。
自分の一生の中で これ以上の女性にもう逢うことはないだろうと思った。
ガラにもなくお父さんはラブレターを書いた。

「結婚して欲しい、もしダメだったらキッパリあきらめます」という内容だったと思う。

だめでもともとのつもりだった。
後日 意外にも君のお母さんは、頷いてくれた。
おとうさんはうれしかった。七転八倒してよろこんだ。
今から思えば人生で一番うれしかった瞬間だった。
そして結婚し 君が生まれたのだ。
君のお母さんは、人にお金をかしてくれと言われると、自分だってあるわけじゃないのに 貸してしまうあきれた人だった。
でも お父さんは そんなお母さんが大好きだったし、そういう人と生活できることを誇りに思っていた。

君が1歳の秋、お父さんとお母さんは別々の道を歩むことになる。

皆で相談した結果 君はお父さんが育てることになった。
ここは肝心なことだけど 君のお母さんは君を捨てたわけではないということだ。
お母さんは最後まで君と一緒に生活することをあきらめようとしなかった。
君を手放したくないと主張したのだが、残念ながらお父さんの主張の方が通ってしまい、周りの人達が君のお母さんを説得するという展開になった。

君のお母さんは結局しょうがなく君をあきらめた。
君とお別れをしなければならなかったお母さんはどんなにくやしかったろう どんなに寂しかっただろう。
気が狂うほど寂しい思いをしたに違いない。

それから君のお母さんは消息不明となった。調べようと思ったら調べられたのかもしれないけど詮索してもその向こうに何もないような気がしたので、正確に言うと意欲的に調べようとしなかった。

それから何年もし、

ある日突然君のお母さんから電話があった。
君が8歳の秋だった。

「わたしだけどわかる?」

「え?」「うん。わかるよ 元気だった?」

母「悪いことしたね。ごめんね。なんか あやまることしかできんけど ほんとごめんなさい」

父「あ いや ぜんぜん、おれも悪かったし、でも元気な声聞けてホッとしたよ。」

電話の向こうで泣き出しそうなのがわかった。
消息不明だったお母さんの消息がわかった。
元気のある声だったので ほんとにホッとした。
この7年間お父さんは無信仰者なのだが、実は毎日お経をとなえていた。
元気でいて欲しい、寂しい思いをしていないで欲しいと。
毎日般若心経をよんでた。なんで般若心経なのかよく自分でもわからなかったが、とにかく祈る時、このお経を唱える人が多いと聞いたからだ。
毎日唱えていたので、お経の本を読まなくても暗記してスラスラ言えるようになったほどだ。

君のお母さんは再婚して今鳥取にいるらしい。その前は愛媛だったらしい。
トンネル工事の仕事をしてる人と再婚し、工事の現場が変るたび引っ越してるらしい。
知り合ったときは今のだんなさんはトンネル工事で旭川にきていたらしい。
電話のむこうで赤ちゃんの泣き声が聞こえた。

父 「ありゃ 子供に恵まれたの?よかったね 何歳?」

母 「うん3歳の女の子と生まれたばっかの3ヶ月。2人とも女の子ださ、なんか女しか生めんみたい」

なんと有希には種違いの妹が二人いた。


父 「自然分娩?」

母 「うん自然分娩だったよ」

自然分娩と聞いたのには訳があった。
君のお母さんは精神的に脆弱な人だった。
だから君を生むとき自然分娩で生んで欲しいとお父さんは願った。
なんでだかわからない。自然分娩で君を生んだら 君のお母さんはきっと強くなれるだろうと思った。
君という子供を育てるたくましさをがぜん獲得できるかもしれない そう思った。
なんでそう思ったかわからない。うまく説明できないけど でも当時なぜかお父さんはそう思ったのだ。
別に医学的な根拠とかがあったわけではないのだが、自分自身で子供を生む体験をして欲しかった。

お母さんは破水し入院し陣痛がきた。

君がお腹のなかにいた時、病院の先生は脆弱な精神の持ち主であるお母さんのことを知っていたので、いきなり最初から帝王切開を勧められた。

先生「赤ちゃんの心音も弱いみたいだし帝王切開の方が...」

父 「何とか自分で生む経験をさせてやりたいんです。お願いします。でももちろん切る判断は先生にお任せいたします。」

とペコペコし懇願する表情からその先生はそこら辺の先生とは違い 多くのことを察してくれるみたいに

先生「わかりました。その方向で考えてみます。」

   「ま でも今の赤ちゃんの心音だともしかすると やっぱ帝王切開がベストかもしれません。」



それから出産準備室へ行き お母さんに言った。

「心音が弱いから切るしかないかもしれないって先生が言ってた」

お父さんは君のお母さんの手を握った。そして目をつぶってお父さんは心の中で念じた。
あらん限り踏ん張るような感じで お腹の中にいる君に

「ガンバレー 負けるなよー がんばれよー 心臓の音もっと出せよなー

元気出せよ 君が元気出したらお母さん自然分娩できるんだぞ そしたら君のお母さんきっと強くなれるんだぞ

君がお母さんを強くできるんだぞ おい 聞こえてるか おい」



その直後だった、
君のお父さんとお母さんは不思議な体験をさせてもらうことになる。
心音を表すデジタルの数字がみるみるカウントアップしていった。
2人で唖然としてそのカウントアップをながめた。
非科学的な現実が目の前で起こっていることに顔を見合わせた。
お母さんは (そしておそらくお父さんも)キョトン顔だった。
奇跡など信じないタイプのお母さんは 「まさか」と苦笑いした。
偶然だったかもしれないのだが、お父さんのがんばれという声がお腹の中の君に届いたみたいだった。
君はむろん無言だったけど 力強くカウントアップする数字から君の意思みたいなものが雄弁に伝わってきた。
それはおそらく 協力してくれようとする意思だったように思える。
我々の気持ちにタイミングよく呼応してくれる君の強い意志のようだった。
その数字がカウント「100」を超えた時だったと思う。
君の心臓が破裂するんじゃないかと不安になってきた。
お父さんは念じ直した。「もういい もういい もう十分だからぁー」
お父さんも奇跡など信じないタイプだったが、このときばかりは もしかしたらこの世に神様はいるのかもかもしれない そう思った。
先生がきて心音の数字を見、

「ん?アリャ? 数字上がってますねー なんでかな? 

 でもこれなら切らなくてもいいですね だいじょーぶです いけます ハイ」

でも難産だった。
君はなかなか出てこなかった。
なかなか出てこないから危険だと判断した助産婦さんは機械で無理やり君を吸引した。
君の頭がいびつな形をしているのはそのためだ。

沐浴室で助産婦さんがお父さんに

「機械で吸引したから頭の形かわっちゃったんですから。ごめんなさい!」


電話の話にもどる。
それから彼女といろんな話をした。

父 「有希にはとてもきれいでやさしいお母さんだったと小さい頃から言ってるので、

    いつか合いたいって言うと思う。その時合ってやってもらえるだろうか」


彼女は快諾してくれた。


父 「いつでも電話してきていいよ 俺 まだ一人もんだから でもあんたは所帯持ちだから電話番号は聞かないから」

母 「うん 結婚とかしないの」

父 「うん しない」

母 「それって わたしのせい?」

父 「いや ま 相手いないし、この生活悪くないと思ってるし、父子家庭て意外とおもしろいんだよね

   だからこの生活気に入ってるんだ実は。」

母 「そう言ってもらえると なんかありがたいな」

父 「有希のことはがんばって育てるから、おまえも元気でな、今度合おうぜ。うーんと年取ったら絶対あおうな

   話すること山ほどあるも。」

母 「うん!わかった」

電話の向こうで長電話で構ってくれないお母さんにまとわりつく女の子の様子が聞こえてくる。
まだまだたくさん話したいことがあったのだが電話を切った。

君のお母さんはあきらかに変っていた。声を聞いてわかる。
君も含めて3人の子を自然分娩した君のお母さんはいわゆる母親の声だった。
ちょっとしたことでいつもピーピー泣いていた昔のイメージはもう払拭されていた。
君のお母さんは強くなっていたのだ。
君ががんばって心音のボリュームを上げてくれ下から出てきてくれたことと もしかすると無関係じゃないかもしれない。
お父さんの考えすぎかもしれないけど、君は自分の頭の形がいびつになる代償をはらってお母さんを強くしたのかもしれない。
君ががんばったから、君の妹達はこの世に生を受けたのかもしれない。


最近君は髪を伸ばし始めた。色気づいてきたのだろう。
有希はお父さんに髪をいじられるのを嫌う。
お父さんに髪をゴムで束ねられるのは乱暴で痛いかららしい。
髪の束ね方は人にレクチャーしてもらったことがあるし編みこみまで習ったのだが、いまだに有希はなかなかお父さんに髪をいじらしてくれない。
おばあちゃんはうまいからじゃなく力が弱いから痛くないだけなんだけど、だからおばあちゃんが束ねると1時間くらいでほどけてくる。
あんのじょう 君が学校から帰ってくる時は毎日とても変な頭になってる。
まるで差別用語を口にしたくなるくらい、それでも有希はおばあちゃんでなきゃダメだと言う。

でもたまにおばあちゃんがいない時、有希は観念する。しょうがなくお父さんに髪というか身をゆだねることになる。
お父さんはたましかさせてもらえない かみゆいの時間、くしを入れる際 今は髪に埋まっているが変形してデコボコな君の頭をなぞってみる。
君の頭は今もやっぱりデコボコしている。
デコボコな頭は君の勲章のように思えてならない。
君のお母さんは再婚し2人の子供を生み、残念ながら君にとって手の届かないほど遠い遠い存在になってしまった感じがするけど、でも君が生まれる時、君と君のお母さんが がんばって共同作業し 悪戦苦闘した痕跡が今も頭に形として残っている。
これから先、頭をさわって 変形している自分の頭をなぞりながら 君はお母さんを感ずることができる。
お父さんが忘れないで欲しいと思うのは、頭のデコボコの一つ一つは 一生懸命生もうとしてくれた君のお母さんが歯をくいしばった回数であり、ふんばった回数をあらわしているということであります。
お母さんとの絆は痕跡として勲章としていつも君とともにあります。
もし どうしてもお母さんという存在が恋しくて恋しくてしょうがなくなったら、君は変形した自分の頭をなぞり目をつぶればいい。

いつもピーピー泣いてて 

気持ちが弱くて 

でもやさしくて 

とってもきれいで すぐ人にお金を貸してしまうお母さんを想像すればいい。 
たまに許されたかみゆいの時、お父さんはそんな君の勲章を手のひらで確認させてもらうことにしてる。








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