有希と近所のミスドに行った。
閉店していた。
張り紙がしてあった。
ー 商品品薄になりました。一時閉店いたします。7時30分からまた開店します 。ー
「へ?なんで?へ?こんなん、初めてみたぁ」
「おと!そうだ、80円セールだからだわ、きっと!昨日も行列だった。」
そういや、CMでやってたのを思い出した。
「また、7時半にこよ」との有希だったが、
「ドーナツ買うのに並ぶのヤだよ、アホ。そんな行動はお父さんの美意識の中にはない!」
が、結局有希におしきられて、7時半にまたミスドに到着したのだが、写真のように結構人が並んでいた。
最後尾に付き、待つこと、30分、やっと買えたが、お目当てのフレンチクルーラーは出てなかった。
奥のほうで、アルミ棒がフレンチクルーラー真ん中の穴に通されてひしめきあっているものが、何段にもなって並んでいた。乳白色の液体がポタポタ落ちている。シロップが乾かないと、売りに出せないのだろう。
ハニーディップ、80円
「やすっ!」
みんなが並ぶのが理解できた。
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先日、中学校の学校祭があった。
有希は踊りを踊った。(左から2番目)
歌を歌ったり踊ったりする才能は、ゼロだと思っていたが、友達に何度も根気よく教えてもらったらしく、なんとか恥をかかないですんだみたいだ。
左右盲の有希にしては、まぁがんばった方だろう。
んで、最近、有希はかぜをひいた。
「熱が出ても、具合が悪くても、病院や薬に頼らないで、自分で治す練習をしろ!」
という、お父さんの、大時代的な迷信のような言葉を有希はなぜか信じて、それに従っている。
「お父さんの時の部活は、熱が39度以上でなければ、休ませてもらえなかった。
38度台は平熱だと言われた。運動すると発熱したと同じになるから、ウイルスはそのため身体から追い出される結果になる。」
こんなむちゃくちゃな理論に有希は従わなければならない。
お父さんの子に生まれた不幸なのである。
有希の体温を計ってみた。38.6だった。
頭が痛いのだろう、元気がまったくない。
「晩ごはん 何にする?」
「いらない!」
「何か食べた方がいいぞ!」
「んじゃ、うどん食べるわ。具はいらない。うどんだけがありがたい。」
スーパーへ行き、「まるちゃんの鍋うどん」を買ってくる。98円。
アルミ鍋の中にお湯を入れて火にかければいいだけ、インスタントラーメンみたいなやつ。早速作った。
、
有希はうどんをすする。3分の2くらい食べたところで、
「ね おと?残してもいい?」と、こっちの顔色をうかがってきた。
せっかく作ってくれたものを残して悪いと思うのだろう、普段、妙に封建的なお父さんに気を使う娘を見て胸が痛くなった。
「インスタントうどんだし、98円だし、お前は具合が悪いわけだし、全然気を使う必要はないんだああぁぁ!」と言ってやりたいのはあたりまえなのだが、
「うん いいよ のこしても 」と、無表情でしか言えない。役者じゃないのでニコリともできない。
こんな時、父子家庭のお父さんは、暗闇に落ちていくくらいの不憫な気持と自虐的な気持を味わうことになるのだろうが、だろうがでも、昔みたいに大きく落ち込むことはなくなった。自分も強くなったのだろう。
父子家庭にかぎらず、ここらへんは親であれば誰でも味わう試練なんだろうなぁ、なんて思う。
でもこんなむちゃくちゃなお父さんに、よくいままで付いてきてくれたなぁ、うちの娘はぁ。
ちゅーか、付いていくしかなかったんだろうなぁ。そっちの方が不憫だったわ。